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2013年1月20日 (日)

「景気対策」

自民党が政権を取り戻して第二次安倍政権が誕生した。長引くデフレからの脱却を目指すための明確なビジョン、すなわち思い切った景気対策を打ち出した。大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間需要を喚起する成長戦略の三つだ。その中でも特に金融緩和に重点を置くとのことだ。
金融緩和とは市場に出回るお金の量を増やすこと。この場合、日本の金利はすでにゼロに近いため出回る紙幣の絶対量を増やす「量的緩和」に脚光が浴びている。
安倍総裁は衆院選挙前には法律を変えてでも、政府が発行する建設国債を日銀にすべて買ってもらう「日銀の国債引き受け」をすすめたいとの考えを示した。しかし「日銀の国債引き受け」は、なんの担保もない紙幣供給のやり方であり、理屈では、いくらでも紙幣を市場に供給できる。政府が国債を発行さえすれば、日銀の刷る紙幣が欲しいだけ手に入る。もしそれを推進すればコントロール不能なハイパーインフレに陥る恐れがある。したがって「日銀の国債引き受け」は財政法により禁止されている禁じ手であり、諸外国でも中央銀行による「国債引き受け」は禁止されている。

現在、日銀はデフレ対策の金融緩和策として国債を多く買い続けている。これは、あくまでも市場をとおして、つまり銀行が保有する国債を買うことで銀行に紙幣を供給している。したがって「日銀の国債引き受け」と異なり、銀行にある預金が担保となるため日本円の信用が損なわれることはない。この「日銀の国債買い取り」の枠が2012年10月末、80兆円から91兆円に増やされた。
野党のみならず自民党内部にも「日銀の国債引き受け」に拒否反応を示す議員が多くいるため、安倍政権は建設国債を大量に発行して「日銀の国債買い取り」を一層すすめることで大胆な金融緩和を行うはずだ。
政府が多くの建設国債を発行する。銀行が国債を買い、買った国債を日銀が買い取れば、銀行が貸し出しに使えるお金の量は増える。その結果、金融機関は低い利率でお金を貸すことができ、私たちはお金が借りやすくなる。企業は設備投資がしやすく、個人ではローンを使って住宅などが買いやすくなる。
財政政策とは大規模な財政出動のことで、具体的には13兆円規模の今年度補正予算であり、今後10年にわたり200兆円規模の大型公共事業だ。その内容は国土強靭化対策を中心にするものだが、中には高速道路の未開通区間の建設も含まれる。
成長戦略については金融緩和・財政政策に比べ、やや具体性に乏しいものの再生可能エネルギー・福祉関連・エコ関連・バイオテクノロジーといった分野への投資になる模様。

デフレ脱却のノーマルな流れは次のとおり。
「企業の売上向上(経済成長)」→「給与・賃金アップ」→「物価上昇」
しかし日本では1997年の平均給与467万円をピークに給与・賃金は減り続け、2011年では409万円にまで下がった。平均給与と連動して物価も減少傾向に入り、デフレは15年以上も続き、日本経済は長く縮小傾向のまま。そして多くの日本人はそんなデフレ環境に慣れ、ともかく安い物に殺到する。1円でも安く済ませるための節約術があらゆるところで展開される。低い給与でもそれなりに暮らせる生活術が定着した。実際、日銀が行う「生活意識に関するアンケート調査」を見ると国民の抵抗感が少ないのは、物価上昇(インフレ)ではなく物価下落(デフレ)であることが分かる。デフレの方がまだましという意識だ。

そんな状況下で経済成長を起点にしてデフレから脱却するのは難しいという意見がある。この場合の対処策として、まず物価を上昇させれば、その後、景気が連動してくるとの考えに立つ。政府と日銀が協調して大胆な「量的緩和」をすすめ、日銀に大量の紙幣を刷らせて出回る紙幣の絶対量を増やす。そうなればインフレ傾向が現れ、その後、景気は好転する。またインフレ傾向が現れるには市場のインフレ予想を高めることも大切。予想インフレ率が上がれば実質的な金利が低下して景気が刺激されるからだ。
その意味で安倍総理は日銀に対して「1%のインフレ目途(ゴール)」から「2%のインフレ目標(ターゲット)」に変えるよう迫っている。デフレ脱却に向けた断固たる姿勢を国内外に見せることでインフレ期待を盛り上げようとしている。具体的なインフレ目標を掲げ、大胆な金融緩和を日銀と協調して推し進めていけば、物価は上がり、企業の売上は増え、給与・賃金も上がり始めるという。

大胆な「量的緩和」を打ち出しインフレ期待が高まれば円安の方向へと動き、そして円安が企業にとって好ましいと考える人が多いため株高の傾向に動く。しかし同時に市場の金利は上がり、国債の価格は下落する。
日本の産業構造を見れば、輸出より輸入の方が規模は大きい。したがって円安傾向を手放しで喜ぶことはできない。福島第一原発事故以降、特にエネルギーについては原油やLNGなどの輸入に大きく依存するようになった。
政策が功を奏して物価が上がり企業の売上が増えたとしても本当に給与・賃金は上がるのだろうか。そして雇用条件は改善されるのだろうか。それが重要だ。賃金や雇用条件が同じままで物価だけが上がるのは許容できない。しかし日本企業の多くはグローバル競争にさらされ、生産拠点を発展途上国に移し、非正規雇用を増やして人件費をできるだけ抑えているのが実情だ。売上が増えた分を人件費に転化できる企業はごくわずかである。先行き不安なのは個人も企業も同じだ。増えたとしても個人は貯金に、企業は内部留保に転化されるだけ。

実際、通貨ウォン安を背景に経済成長を続ける韓国では大企業を中心に業績は伸び、物価は上昇している。にもかかわらず実質賃金は下がり、庶民の生活は苦しくなった。韓国は日本以上にグローバル市場にさらされている。経済成長をしているといってもマクロで見た統計上のことで、実際はほんの一握りの大企業だけが大きな収益をあげ、その他大勢の中小・零細企業や自営業者は苦しい経営を続けている。
物価を上げるといっても物価や賃金には硬直性があり、簡単には上がらない。うまくいっても2~3年という期間がかかる。物価には、あらゆる物の値段からサービスの値段まで含まれる。たとえば鉄道運賃や家賃の改定を考えても、おおむね2~3年という年月を要する。

デフレからの脱却にはインフレに対する期待感が重要だといったとおり、根本的には私たちのマインドが重要になる。最近、あるニュース番組が次のようなアンケート調査の結果について報道していた。
『企業や国民が物・サービスを買う気にならない理由』
【第1位】所得が減っている、あるいは増えないから
【第2位】将来への漠然とした不安
【第3位】税金の増税や社会保障の負担増
給与・賃金が上がるかもしれない、あるいは雇用条件がよくなるかもしれないという期待感。安易な負担を求め続ける国や、連帯感が薄れ孤立化する社会に対する不安感の払拭。そんなマインドを多くの国民に持ってもらえるかどうかにかかっている。しかし現状を見れば次のとおりだ。
東日本大震災の復興財源として所得税・住民税・法人税が増税される。法人税はすでに昨年から、所得税は今月から増税された。住民税は来年から増税される予定。社会保障関係財源として消費税が来年には税率8%、再来年には10%へと段階的に増税される予定。さらに厚生年金の負担額は2017年まで毎年、増え続ける。そして電気料金も値上がりし続けている。

ここ15年以上も国民の給与・賃金が下がり続けているにもかかわらず、これだけの負担を平気で求めてくる国。その国、つまり官の費用を見る。GDPに占める官の費用について、米国と対比すると次のとおりだ。
【米国】1985年 20.6% → 2010年 17.1% (減少傾向)
【日本】1985年 20.1% → 2010年 24.5% (増加傾向)
庶民の給与・賃金も、税収も減り続け、国債という借金に依存し続けているにもかかわらず、国会議員や国家公務員は自分たちの給与・手当・福利厚生や特権を維持し続けている。さらに独立行政法人を舞台にする官僚の天下り人事は後を絶たない。

富を得る者と貧しい者の格差は広がるばかりで、中間所得層は減り続ける。それが続けば、ほんの一握りの大資本家とその他大勢の貧しい者という状況に行き着く。
デフレからインフレに移行する際の最低賃金引上げと物価上昇を両天秤にかければ、低所得層にとってデフレの方がまだまし。また国の下で働く者は相変わらず高い給与水準を維持しているため、物価が下落し続けるデフレ下では実質的な給与アップである。
そして実質的な特権が与えられている銀行はデフレ下では、融資などせず国債が出てくるのを待って大量に買うだけで多額の利益が得られる。銀行が国債を買う時には限度額も決められていないし、原資がなくても買える。預金金利はほぼゼロなので国債金利がほとんど利益になる。デフレ下では金利は低いものの国債の価値は下がらないため安心して多く買えるからだ。
そのように富裕層から貧しい者まで、個人という視点ではデフレの方がよいという意識が働く。ただし企業人・組織人という視点ではインフレになって欲しいと願う人は多い。

資本主義における自由競争の行き着く先は、ほんの一握りの金持ちとその他大勢の貧しい者。富裕層から多く税金を徴収して、社会保障と称して貧しい者に所得の再配分をいくら行ったところで、貧しい者の心までいやすことはできない。やはり、みずから働いて一定水準のお金を稼いではじめて心が満たされる。
大型チェーン系列が大資本にものをいわせて街の個人商店を淘汰していき、商店街はシャッター通りと化している。そんな光景を食い止めるには中間所得層を増やすことであり、それには国が思い切った規制をつくることだ。つまり大資本に対する規制強化を行うことである。
私たち国民の多くは、中小・零細企業で働く者や自営業者である。所得を一部の者に集中させるのではなく分散させ、多くの人が一定水準の給与を得られるようにしないといけない。そのためには自由競争にルール、すなわち規制を設けるべきである。確かに現在も規制はあるが十分でない。ほとんどの労働者が一定水準の給与・賃金をもらえてはじめて購買意欲がわき、デフレから脱却できる。
同時に国の下で働く者は庶民の苦しみを分かち合うべく、みずから血を流す覚悟を持つべきである。

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